「老後は子どもたちの近くにいたい」
そんな思いを抱く高齢者は少なくないでしょう。
しかし、いざ住み替えを検討してみると、思わぬ壁にぶち当たるケースがあります。
それが、高齢者の「住宅難民」問題です。

今回は、高齢者が賃貸住宅を借りる際に直面する困難さ、その背景にある問題点、そして今後の解決策として注目されている「住宅セーフティネット制度」について解説していきます。

高齢者が賃貸住宅を借りづらい理由

高齢者が賃貸住宅を借りる際に直面する困難さとして、主に以下の4つの問題が挙げられます。
  1. 孤独死のリスク:高齢者の一人暮らしが増える中、孤独死のリスクが高まっています。賃貸物件のオーナーにとっては、孤独死が発生した場合、その物件の価値が下がることを懸念する声があります。
  2. 家賃滞納のリスク:高齢者の収入が不安定な場合、家賃滞納のリスクが高まるという懸念があります。
  3. 死亡後の残置物:入居者が亡くなった後に部屋に残された家具や家電などの処理が、オーナーにとって大きな負担となることがあります。
  4. 認知症のリスク:認知症の高齢者の場合、契約内容を理解できなかったり、トラブルを起こしたりする可能性があるため、賃貸契約を敬遠されることがあります。

これまでの取り組みと今後の課題

これらの問題に対して、国や自治体、民間企業など様々な主体が対策を進めています。
高齢者の賃貸住まいを阻む「四つの難問」
  • 孤独死に関するガイドラインの策定:孤独死に関するガイドラインが策定され、不動産会社が借り手にどこまで告知すべきかが明確化されました。
  • 家賃保証制度の拡充:家賃保証制度が拡充され、高齢者の家賃滞納リスクを軽減する取り組みが進んでいます。
  • 残置物の処理に関するモデル契約条項の策定:残置物の処理に関するモデル契約条項が策定され、相続人とのやり取りの負担を軽減する仕組みが整いつつあります。
しかし、これらの取り組みだけでは、高齢者の住宅難民問題が完全に解決されたとは言えません。特に、認知症の高齢者の増加は、今後も大きな課題として残されています。

高齢者の住宅問題を解決するために

高齢者の住宅問題を解決するためには、以下の様な取り組みが考えられます。
  • 認知症に対する理解の深化:認知症に対する理解を深め、認知症の高齢者でも安心して暮らせる住環境を提供するための取り組みを推進する。
  • 多様な住まい方の選択肢の提供:高齢者向けのシェアハウスやグループホームなど、多様な住まい方の選択肢を提供することで、一人暮らしの孤独感を解消し、安心して暮らせる環境を提供する。
  • 地域社会の連携強化:地域住民やボランティアが、高齢者の見守りや生活支援を行うことで、孤立を防ぎ、安心して暮らせる環境を築く。
  • 「住宅セーフティネット制度」の活用:高齢者が安心して賃貸住宅に住めるよう、住宅セーフティネット制度を活用し、入居支援や家賃保証などのサポート体制を強化する。

住宅セーフティネット制度とは?

住宅セーフティネット制度とは、高齢者などの住宅確保要配慮者の方が住宅を確保できるように、民間住宅を活用することを目的としています。
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制度の内容は以下の通りです。
  1. 住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅(セーフティネット住宅)の登録制度
  2. 登録住宅の改修や入居者への経済的な支援
  3. 住宅確保要配慮者に対する居住支援
※ 住宅の確保に配慮が必要な方をいい、具体的には、”低額所得者”、”被災者”、”高齢者”、”障害者”、”子育て世帯”、”外国人”と定義されています。
住宅確保要配慮者の範囲


1.住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅(セーフティネット住宅)の登録制度

登録の際には、入居を拒まない住宅確保要配慮者の範囲を限定することが可能です。
例えば、「障害者の入居は拒まない」として登録したり、「高齢者、低額所得者、被災者の入居は拒まない」として登録したりすることができます。

登録された「セーフティネット住宅」は、以下のサイトで検索することが可能です。


2.登録住宅の改修や入居者への経済的な支援

登録の際には、住宅の規模、構造等について以下のような基準に適合する必要があります。
  • 耐震性を有すること
  • 住戸の床面積が原則25㎡以上であること
  • 家賃の額が近傍同種の住宅の家賃の額と均衡を失しないこと

登録住宅の改修への支援として、改修費に対する補助制度があります。
登録住宅の改修への補助の概要

3.住宅確保要配慮者に対する居住支援

居住支援活動を行うNPO法人等を、賃貸住宅への入居に係る情報提供・相談、見守りなどの生活支援、登録住宅の入居者への家賃債務保証等の業務を行う「住宅確保要配慮者居住支援法人(以下「居住支援法人」)として、業務を行う都道府県から指定を受ける必要があります。

居住支援法人の行う業務
  • 住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅(セーフティネット住宅)として登録された住宅の入居者への家賃債務保証
  • 住宅相談など賃貸住宅への円滑な入居に係る情報提供・相談
  • 見守りなど住宅確保要配慮者への生活支援
  • 上記1~3の業務に附帯する業務

広島県では、居住支援法人の指定を受けるには、おおむね以下の基準を満たす必要があります。
1. 支援業務計画に関する基準
計画の適切性 支援の内容や方法が適切で、実施に必要な体制が整っていること。
対象者 支援の対象となる住宅確保要配慮者の範囲が明確で、不当な差別がないこと。
連携 広島県居住支援協議会との連携を図ること。
苦情処理 苦情に対応するための体制が整っていること。
個人情報 個人情報を適切に管理するための措置が講じられていること。
2. 経理に関する基準
財源 支援業務に必要な自主財源を有していること。
財務状況 債務超過でないこと。
予算 予算規模が適切で、事業と予算のバランスがとれていること。
3. 技術に関する基準
経験 債務保証業務を行う場合は家賃債務保証業者の登録が必要で、その他の支援業務を行う場合は概ね3年以上の実績が必要。
推薦 市町村からの推薦がある場合は、3年の実績要件が免除される場合がある。
4. 役員・職員の構成に関する基準
役員・職員の適格性 役員・職員が、破産、禁錮以上の刑、暴力団関係など、法令に違反する行為に関わったことがないこと。
組織の健全性 暴力団等が組織を支配したり、組織が暴力団を支援したりしていないこと。
5. その他の基準
組織の分離 支援業務以外の業務を行っている場合は、支援業務に支障がないよう適切に分離されていること。
定款 定款に法人の目的として支援業務を実施するために必要な記載がされていること。
意思決定 支援業務の実施のための意思決定がなされていること。
法令遵守 定款の内容が法令に適合していること。


まとめ

高齢者の住宅難民問題は、高齢化社会が進む日本において、避けて通ることのできない課題です。
高齢者が安心して暮らせる社会を実現するためには、国や自治体、民間企業、そして私たち一人ひとりが、この問題に対して関心を持ち、積極的に取り組んでいく必要があります。



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