2026年2月3日、大手退職代行サービス「モームリ」の運営会社社長らが弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕されました。代行業者が顧客を弁護士に紹介し、その対価として裏で「紹介料(キックバック)」を受け取っていた疑いです。
当事務所では退職代行業務そのものは取り扱っておりませんが、士業の倫理に関わる重大なニュースとして、今回の事件を解説します。
1.誤解されがちですが、退職代行そのものは「白」です
まず、利用を検討されている方のために明記しておきたいのは、「退職代行サービス」という仕組み自体は違法ではないということです。
裁判例(東京地裁など)でも、以下の範囲内であれば「非弁行為(無資格者の法律事務)」には当たらないと判断されています。
- 本人の「使者」として退職の意思を伝えること
- 私物の引き取りや離職票の送付依頼など、付随的な連絡の取り次ぎ
つまり、単なる「伝言」や「事務連絡」の代行であれば、民間業者が行っても法律違反ではありません。しかし、そこから一歩踏み込んで「有給の交渉」や「損害賠償への反論」などを行うと「黒」になります。
2.今回の核心:なぜ「紹介料」で逮捕されたのか
今回の事件のポイントは、代行業務そのものではなく、「弁護士へのあっせん報酬(紹介料)」にあります。
非弁提携(弁護士法第27条違反): 弁護士が、無資格の業者から客の紹介を受け、その対価を支払うこと。
紹介料が動くと、士業は「依頼者の利益」よりも「業者のマージン」を優先するようになり、公共性が損なわれます。そのため、非常に重い刑事罰の対象となるのです。
3.紹介料が「違法ではない」士業との違い
士業によってルールが異なる点も、混乱を招く一因です。
| 弁護士 司法書士 行政書士 土地家屋調査士 |
厳格に禁止(違法・懲戒)。 高い中立性が求められます。 |
|---|---|
| 税理士 | 法律上の直接禁止規定なし。 営業努力の一環として事実上容認されている側面があります。 |
この違いを逆手に取り、他業種と同じ感覚で士業にキックバックを要求する業者が後を絶ちませんが、私たちにとって、それは身を滅ぼす一線なのです。
ところで、行政書士については、一昨年施行の「行政書士職務基本規則」や昨今の法改正(2026年1月施行)により、紹介料の支払いや無資格者との提携が厳罰化されました。
実は私自身、司法書士に登録した後に行政書士登録をした経緯があります。
行政書士側でキックバックが慣行として一部容認されていた時期もありましたが、私は当時から一度も紹介料を支払ったことはありません。
なぜなら、二つの資格を持つ身として、一方で不適切な行為を行えば、もう一方の資格にも波及し、厳しい懲戒処分を受ける可能性があるからです。
こうした「紹介料」という名のコストは、最終的に「お客様が支払う料金」に上乗せされるものです。
墓じまい等の相談で葬儀業者からキックバックを要求された際も、一貫してお断りしてきました。
私たちは、お客様に不利益を強いるような不透明な金銭のやり取りは一切行いません。
4.司法書士の現場における「指定」のジレンマ
司法書士業界でも紹介料は厳禁ですが、不動産実務には特有の慣行があります。
例えば、建売住宅などの取引において「土地の仕入れや権利関係を整理した司法書士を、販売段階でも指定する」というケースです。
これは、一見すると「特定の司法書士を強制される」不自然さを買主様に感じさせるかもしれませんが、実務上は以下のような一応の合理性に基づいています。
- 取引の安全性: 土地の仕入れから開発までの経緯や権利関係を熟知している司法書士が最終的な所有権移転まで担当することで、登記のミスや不測の事態を防ぐことができます。
- 事務の効率化: 大規模な分譲地などでは、一括して手続きを行うことで、書類の不備を最小限に抑え、確実かつ迅速に取引を完了させることが可能です。
- 報酬の調整: 仕入れ時の報酬を抑える代わりに販売時も任せてもらうという形をとることで、取引全体のコスト調整が行われている側面もあります。
このように、指定されること自体には取引を円滑に進めるための「安全弁」としての役割があります。しかし、こうした慣行があるからこそ、私たち司法書士は常に依頼者の利益を最優先し、慣行に甘えることなく、公平性・独立性を保った厳格な職務執行を続けなければなりません。
5.健全な士業連携:キックバックではなく「協力」
例えば、医療法人設立のような複雑な手続きでは、複数の士業の連携が不可欠です。
- 医療法人設立認可申請: 行政書士
- 設立登記: 司法書士
- 設立登記完了届、診療所開設届: 行政書士
- 保険医療機関指定申請: 社会保険労務士
このようなケースでは、私が社労士資格を持っていないため、社労士の独占業務にあたるものは、信頼できる社労士をご紹介させていただいております。
同様に、他士業の独占業務にあたるものや私の経験が不足している分野につきましては、信頼のおける専門家をご紹介させていただいております。
ただ、お客様の方で既にお付き合いのある先生がいらっしゃる場合は、その先生と密に連携を取って手続きを進めております。
士業間の紹介においても、金銭のやり取りは一切発生しません。お互いの専門性を尊重し、お客様にとって最善の結果を出す。これが本来あるべき姿です。
まとめ:公正なリーガルサービスのために
今回の「モームリ」の事件は、士業の根幹である「信頼」を問い直す出来事となりました。
- 直接契約があるか: 士業本人と話し、個別に契約を結んでいるか。
- 紹介料の影がないか: 不透明な費用や、強引な指定がないか。
当事務所はこれからも透明性の高いサービスを提供し続けます。不動産登記や行政手続きでお悩みがあれば、いつでも直接お気軽にご相談ください。